皆さま、お久しぶりです。社長のイッセイです。
実に7年ぶりのブログ更新となります。
2024.9.8~13日の間、大阪府工業協会様の企画による「タイ バンコク企業視察研修」に行ってまいりました。
今回は、そのレポートをお届けします。
私自身タイに行くのは実に約11年ぶりです。
実はコロナ禍に突入して以降、こういった海外視察の企画自体が一旦消滅してしまい、一度途絶えるとなかなか以前のように元に戻らないといいますか、工業協会さんも久しぶりのタイ視察研修だそうです。
私も、妻と2019年に台湾旅行に行ったのが最後・・実に5年ぶりの海外です。
関空の搭乗ゲートや飲食店等の出店エリアが変わり、パスポートを提出して行っていた出国手続きも機械読み取り式に変わっていました。
5年ぶりの海外渡航はいろんなことが変わりすぎていて、まさに浦島太郎状態でした。
この度の視察にて見学にご協力いただいたのは
・ダイキン工業株式会社 様
・EEC オートメーションパーク 様
・コクヨ株式会社 様
・株式会社東研サーモテック 様
・トヨタ自動車株式会社 様
・本田技研工業株式会社 様 (見学順)
全6日間にて順に見学させていただきました。
11年ぶりのタイがどのように見えたのか、各企業様のお話、街の風景等、様々な見分からレポートいたします。
正式名称「タイ王国」
人口約6600万人。
東南アジアでは最大の工業国。
日本との時差は-2時間。
飛行機での所要時間は約6時間です。
戦国時代末期頃から主君を失った日本の浪人がアユタヤに流れてきてそこで日本人街をつくっていたという記録もあり、意外と古くから日本とタイは繋がっています。
しばし小規模な「政治的内紛」が勃発するものの、国家としての治安は比較的安定しており、民族・宗教的リスクも少ない印象です。
海外旅行の難易度で言うと初心者の方にも割とオススメ出来るレベルです。
日本人にも非常に親切な印象があります。
東南アジアなので暑いイメージがありますが、ハッキリ言って今の季節、明らかに日本のほうが暑いです。
体感、5℃は違いました。
地球規模の気候変動なのか、単なる季節的な要因なのかはわかりません。
「タイってめっちゃ暑かったでしょ?」と何度か言われましたが、やや回答に困ります。
通貨単位はバーツ。
×4.25倍で計算すると、だいたいの日本円に換算できます。(2024年9月現在)
100バーツだと約425円になります。
【タイの所得事情】
タイ バンコクの平均年収はだいたい200万円くらいです。
タイ全土では130万円くらいです。
ただ、バンコクとその他地方では2倍の差があったり、バンコクの中でも所得の格差はかなり大きいので、一概にいくらかというのは難しいです。
タイにある一流企業の部長クラスですと、日本の部長クラスより年収が高いというデータもあります。
役員報酬、日本1,700万円に対してタイ2,300万円という感じです。
日本以外の外資系企業はとにかく優秀な人材はお金をかけて獲得するという傾向にありますが、日本企業はやはり平均志向が全面に出てしまうのか、人材の「買い負け」が顕著なようです。
以前、タイのエリートが「アメリカや中国の企業に就職したい。日本の企業には興味がない」と言っているのをテレビで見たことがありますが、本当にそんな感じのようです。
・・とは言っても、これはあくまでハイスペックホワイトカラーの所得事情であり、最低賃金の話になるとまだまだ低いです。
パート・期間工の最低賃金はダイキン様の工場地であるチョンブリ県で日額361バーツ(1,534円)、バンコク363バーツ(1,542円)、パタヤ(1,572円)だそうです。
(パタヤが意外にも一番高いのは観光地だからという理由だそうで)
一方、日本での最低賃金は地域によって違いますが、時給1050円付近ですので、日額ですと5時間勤務で5,250円となります。
タイと比べると日額ベースでは3.5倍ほど差があります。
日本とタイの一般的な年収の差もそんなイメージかなと思います。
あと、タイ人の労働観・・といいますか、会社に求めるものとしては業務以外のイベントがあるかどうか、非常に重要とのことです。
つまるところ、「社員旅行があるか」「パーティーのようなお祭りごとがあるか」なのですが、これに関しては、「ある」ほうがいいとのことです。
それによって入社を決めるか否かのレベルだそうで・・。これは意外です。
日本では「業務後の飲み会に残業代が発生するか問題」など、とにかくマイナス要素でしかなくなった各種「業務外イベント」ですが、タイでは全くもって真逆の意味で捉えられています。
運動会やチーム改善発表など、皆がすすんでやりたいイベントなのだそうです。
これに関しては欧米企業には全く存在しない企業文化で、日本企業に分があると言えます。(日本もほとんど絶滅していますが・・)
タイ人の仕事における価値観は欧米的な個人主義ではなく、チームワークを重視する集団主義的な要素が強いと言えます。
こういったところがやはり日本人的な感覚に近いと言えるのではないでしょうか。
【タイの食料品物価】
先に給与事情をお話ししましたが、食料品などの物価もおおむね日本と比べて1/2~1/3くらいの水準でしょうか。
ただ、路上の屋台なんかは激安で間違いないでしょうが、たとえばマクドナルドのような外資系ファストフード店などは実は日本よりちょっと高かったりします。
例えば、バンコクで買うビッグマックですが、単品では149バーツで約633円になります。
日本では500円ほどで買えますから、明らかにタイのほうが高いです。
あと、日本からの輸入品も総じて高いです。
今回、タニヤ通りの先にあるドン・キホーテに行ってきました。
もちろん日系企業ですので、日本の食べ物が恋しくなればドンキに行けばいろんな「日本食」が手に入ります。
まさにオアシス。
以下、そこで買った食べ物です。
・カップ麺 日清 どん兵衛 きつねうどん 59バーツ、約250円
・カップ麺 一風堂 黒ニンニクラーメン 29バーツ、約123円
・缶ジュース サンガリアのラムネ250ml 49バーツ、約208円
・おかめ納豆 3パックセット 49バーツ、約208円
どん兵衛は「日本製造」との表記があり、おそらく日本からの輸入品、対して一風堂はおそらくは現地生産品だと思われます。
ほとんど2倍の価格差があります。
どん兵衛は日本の物と全く味が同じでした。ウマイ!
サンガリアの缶ラムネが鬼のように高いのもおそらくは輸入品だからでしょう。
(日本の安売りスーパーだと50円位で売ってるイメージですが・・)
同じ大きさの現地生産ペプシコーラは半額以下の20バーツ(約85円)。
納豆3パックは日本ではだいたい100円くらいですので、タイではおよそ2倍ということになります。
ちなみにこのおかめ納豆、日本からの冷凍輸送なのか、中はカッチカチに凍ってました。
やっぱり日本からの輸入品は「高級品」扱いですね。
【タイの乗り物事情】
以前のレポートでも書きましたが、タイ人は車が好きです。
これは他の周辺国ではあまりない「概念」で、基本的に東南アジア圏では「乗り物=移動するもの」と割り切っている場合がほとんどです。
でもタイ人は車やバイクをカスタムするという楽しみ方をします。
もちろん全員がそうとは限りませんが・・
変わった事例でいうと、所得が上がり移動手段がバイクから乗用車に「ステップアップ」した後でも、二輪を所有し続け自動車とバイクの「同時持ち」をするというパターンはタイでは普通にあるようです。
「休日の趣味にバイクを走らせる」といった概念は東南アジアでは珍しいです。
バンコクの道路はデッカいピックアップトラックの魚群が抜きつ抜かれつで争い、その間を指一本分の空気だけを残してすり抜けていくバイクが存在し、カオスな光景が展開されています。
不思議なことにほとんどクラクションが鳴りません。
皆が皆、渋滞を器用にかわしていくのです。
日本基準で考えるとむちゃくちゃな運転マナーに見えるのですが、阿吽の呼吸と言いますか、各々が割り込み、時には譲り合い、無秩序の中にもマナーがあるのだと思います。
日本で見る軽規格の車はただの1台も走っていませんのでバカデカい車が多くて爽快です。
タイでの人気はやはりトヨタ車です。
トヨタのピックアップトラックが圧倒的に多いです。
今回、見学させていただいたトヨタ自動車様の工場も「ハイラックス」と「フォーチュナー」の生産工場であります。
(日本の正規展開されているハイラックスはまさにこのタイ工場で組み立てられたモデル。フォーチュナーは日本未展開)
新車で4-500万円からしますし、タイ人の所得から考えてもそうそう簡単に買えるわけもなく、どうやって買っているのかと訊きましたら8年、9年の長期ローンを組んで買うのだそうです。
以前にも書きましたが、タイでのピックアップトラックの税制はかなり優遇されていて、多少無理なローンを組んで買っても維持費に関しては豪快な故障がない限りそこまで苦労しないのかもしれません。
車検も10年に1回だけです。
そしてバンコクで働いている若者は元々田舎出身だったりするわけです。
連休で地元に帰った際に、荷物を載せたり、人を載せたり、ピックアップタイプだと大移動に便利だからというわけです。
あと、水害時の移動だとか。
ただ、最近はタイ経済の鈍化や金利上昇によるローンの厳格化などもあり、田舎の人がバンコクに出てきてローンを組んで車を買おうとすると審査で通らないというパターンもあるそうです。
ちなみにトヨタに次いで人気なのがいすゞです。
日本では全く見る事のないいすゞのピックアップ車がタイでは大人気。
いすゞ=トラックのイメージしかない日本人には意外と思われるかもしれません。
フォードや三菱のピックアップもそれなりに走っております。
あとタイと言えばトゥクトゥクです。
オート三輪タクシーとでも言いましょうか。
タイの重要な観光資源でもあります。
11年前のレポートでは「規制がかかり新規登録が出来なくなったので少しづつ数は減っていくだろう」と書きました。
その後、規制がどうなったのかはわかりません。
今回の視察ではまだまだ現役でした。
ただ、以前ほど走っていないなと感じたのも事実。
10年後はもっと減っているかもしれません。
【タイの自動車市場の現在】
この度、タイの視察研修に参加した目的は、現地の日系企業さんの見学ももちろんあるのですが、この10年ほどのタイの自動車事情がどのように変化したのかを自分の目で確かめたかったというのがあります。
なので現地の自動車事情にも少し触れておきます。
昨今、世界を取り巻く自動車事情の変化と言えば、もちろん急速なEV化(電気自動車)ではないでしょうか。
エコ意識が高いヨーロッパをはじめ、自動車の普及が年々加速しているアジアにおいても、全世界がEV経済圏を構築しようと必死になっています。
私個人は自動車のEV化は懐疑的な見方をしておりまして、少なくともここ日本では100%のEV化はキッパリと否定するスタンスであります。
(安全性や寒冷時におけるパフォーマンス低下が・・という理由もありますが、単に大規模災害時における停電禍でEVは全く使い物にならない)
世界のEV旋風にタイはどうさらされてるのか・・
タイの自動車市場における王者は今も昔も日本車でありますが、最近は少し事情が変わってきているようです。
近年のタイ政府の方向性としては自動車のEV化を進めたい意向があるようです。
国民全体がそのような意識なのか、タイ政府が推し進めたいだけなのか、正直わかりません。
中国EVカーの筆頭である【BYD】が2023年からタイに大規模工場を建設して、タイ国内での生産、将来的には周辺国への輸出を視野に怒涛の攻勢をかけているとのことです。
また、タイ国内での販売においては政府がタイ生産EVカーの購入に対して補助金を支給するなど、EV普及に力を入れているのです。
販売面では、タイで大規模な自動車ディーラーを展開するレベル・オートモービルにBYDが20%出資するなど着実に日本車包囲網を構築しています。
この波に乗らぬ手はないと、なんとそれまでスズキや日産を販売していた末端のディーラーがここぞとばかりにBYD販売店に鞍替えしているパターンも少なくありません。
BYDに限らず、中国のEVメーカーはすでに10社以上がタイ進出を実現しているとのこと。
日経新聞の7月の報道によりますと、タイでの日本車のシェアは2019年の90%から2023年にはなんと78%にまで減少したとの衝撃報道があり、これが本当なら10数年後には日本車と中国車のシェアは逆転してる可能性もゼロではありません。
ただ、2024年に入ってから世界で「EV不信」とも言うべき懸念が広がっており、バッテリーの火災問題や各国のEV補助金打ち切りによる在庫のダブつき問題など、急速に広がったEV旋風にブレーキがかかった感もあります。
100%EV化を宣言していた欧州カーメーカーが、急スピードで白紙撤回したりとEV情勢が今年に入ってからもかなり変化したように思います。
このままタイでBYDの攻勢が続くのかといえば一筋縄ではいかないでしょう。
BYDを含め、中国EVカー同士でシェアを争うがあまり、価格を3割引きにして販売しているという報道もあります。
今回、バンコクの街を見た限り、中国のEVカーは100台に5台くらいあったかなという印象です。
体感ではそこまで日本車のシェアが食われていたのか・・疑問が残ります。
タイ政府は「EV推進」という放った矢を途中で回収しにいくのか、より強力な矢を追加で放つのか、今後の動向が気になるところです。
【やる気あふれるタイの若者】
「出世したくない」―。
最近の日本人のミドル層以下、男女含め製造業やサービス業に限らず、勤め人の多くはこういう考え方がデフォルトなのだそうです。
いわゆる「名ばかり管理職」にあてがわれて、薄給なのに責任ばかり負わされる「社会」に嫌気がさすのでしょうか、とにかく上を目指す気がないといえばそうなのかもしれません。
人だけではなくて、社会全体の空気がそんな感じではないでしょうか。
一方、タイの「やる気」は社会全体から昇竜のごとくみなぎっています。
もっといいポジションを、もっといい生活を・・。
このタイにあふれるパワーは日本においては、久しく感じたことがないような気がします。
この差は何なんでしょう。
90年代のバブルにして日本は社会・生活インフラをほぼ完成させました。
貧乏学生もその気になれば家電や自動車も所有できたでしょう。
自分自身に、そして自分の周りに、それらが溢れたことにより、そこから上を目指すプレッシャーがなくなったとも言えます。
同時に身の回りの「不便」は少しづつ解消していきました。
時代が流れてもそれはさほど変わらず、今の時代、どんなに貧乏でもクーラーがない部屋に住んでますなんて話は聞いたことがありません。
車はなくても生活できるし、何ならスマホ一台で日用品が揃います。
外に行かなくても動画で外の世界がわかるし、室内娯楽の充実は言うまでもありません。
一度、世界の頂点に手が届き成熟した社会を完成させた我が日本は、あの頃より没落したとはいえ、日常生活に欠かすことができないありとあらゆるインフラは今も健在で、不便なく機能しています。
そのような国で上を目指す気が起こらないのはある意味必然なのかもしれません。
上を目指さなくてもそれなりに快適だからです。
一方、タイ人にとっては日常生活において自動車、家電製品など、まだまだ未知・未体験の領域が多いのです。
だから人は皆、物欲の化身であり、我欲の塊なのです。
「もっといい生活がしたい!もっといい車に乗りたい!」
タイ人の出世欲は本物です。
やる気をなくして久しい我々日本人にはタイ人のガッツは正直うらやましいです。
新興国に来ていつも元気をもらうのがこういうところなんだなと改めて思いました。
以上、タイ視察のレポートでした。
街の風景は11年前とあまり変わっていなかったと思います。
しかし、やはりと言ってはなんですが、日本が10年、20年停滞している間にタイも確実に経済が伸びてきたなと感じました。
頭打ちの日本を尻目に今後も確実に世界経済は伸びてくると思います。
荒波の中で日本はどう立ち回っていくのか、もっと真剣に考えるべきだと痛感しました。
穏やかな性格、高い道徳観、宗教が全面に出ない文化、日本とタイのフィーリングはマッチしていると感じます。
経済、政治、文化・・あらゆる面で今後も日本とタイの関係は強固にしていくべきでしょう。
タイに栄光あれ!